- 私は、営業職のサラリーマンですが、転職しようと思い会社に申し出たら、 「業務上手に入れた名刺はすべて置いていけ」と言われました。自分が汗水流して手に入れた顧客の名刺は、自分のものではないでしょうか?
- 退職者に対し、秘密漏洩の防止策などを講じている会社は少なくありません。
不正競争防止法では、企業の内部情報が「営業秘密」として保護されるための
要件として、
①施錠できる場所で保管するなど秘密として管理されている、
②事業活動に有用な技術上・営業上の情報である、
③公然と知られていない事柄であること
を挙げています。問題は、「名刺といえども職務上入手した情報は営業の秘密といえるのか」、
「漏洩防止策など会社の意向を書面などで周知させる必要があるのか」どうか
ということです。労働者が職務上手に入れた名刺が営業秘密でない場合、退職後も自由に
使えることができ、ライバル社への転職禁止契約が労使間にない場合は、
労働者には転職の自由があり、前職で培われた能力や情報を使用できる
とされています。前職で入手した名刺などを転職後も利用した元社員に会社側が損害賠償など
を求めた裁判例があります。2001年、東京地裁は「保管、利用などを制約する労使間の取り決めがない」
として名刺を営業秘密とは認めませんでした(一審で確定)。実際、名刺は労働者が各自で管理することが多く、名刺を営業秘密として
会社が管理するのは難しいだろうとしています。然し他方で、職務上知り得た情報を、個人情報保護などを理由に労使間で
秘密保持契約を結んでいたり、社内の「秘密管理規程」などで社員に周知したり
している場合、会社が名刺などの返却を強制しても問題はないとされるようです。