- 当社はこれまで退職金制度がなかったのですが、今度新たに退職金制度を導入しようと考えていますが、制度設計時に,注意すべきポイントにはどんな点があるでしょうか?
- 基本的には以下のような点を押えて置く必要があります。
1.「退職金カーブ」はどうする?
まずは,退職金カーブの形状です。企業により様々な
退職金制度がありますが,大きく分けて大企業と中小企業と
ではその形状が大きく異なる傾向があります。
大企業型は,ある程度の年齢(例えば50歳)でピークを迎え,
その後はあまり退職金が増えない形状をしています。
これに対し,中小企業型では,自己都合退職の減額率を
高く設定(退職金は少額)し,定年にならない限り100%は
もらえない形状をしています。
これは,各企業の目的に応じて退職金制度が設計
されているからです。
つまり,大企業型ではある程度の年齢になると退職または
他の企業への転職を誘導しているのに対し,
中小企業型では定年まで長く働いてほしい(定年まで
勤め上げない限り,退職金は減額する)という企業側の
考えを具現化しているとも言えるでしょう。
このように,退職金制度の設計にあたっては企業の
考え方が適切に反映される必要があります。
2.退職金の水準はどうする?
次に退職金水準の考え方ですが,
これは基本的には費用負担が可能かどうかという
問題です。
ただし,この費用の定義が中小のオーナー企業では
曖昧になりがちです。
大企業やその関連会社では「退職給付会計」という
厳然とした会計が存在しているため,退職金の費用は
勤務費用・利息費用・償却費用と決まっていますが,
退職給付会計を採用していない企業では,
年間の掛金だったり定年退職者への退職金だったり
見方がバラバラです。
このような中小企業の場合は,退職金の費用を
「1年間に増加する退職金額」で捉えるとよいでしょう。
つまり,従業員が1年間勤務することにより増えた
退職金額を費用として認識するということです。
これは,退職給付会計の簡便法の考え方でもあります。
この金額が年間の予算に合わなければ退職金水準は
高すぎるという判断をすればよいでしょう。
3.「年功序列型」か「会社貢献型」か?
最近の傾向としては年功序列型から会社貢献型の
制度への移行が進んでいることは間違いありません。
人事制度が年功序列型から会社貢献型になっている
のに,退職金制度だけが年功序列型というのは
おかしいという考え方です。
ただし,すべての企業がこのような考え方という
わけではありません。
例えば,「企業への貢献は毎年の賞与で精算
しているから退職金は最終給与比例方式の
ような年功序列型でよい」という考えの企業が
あります。
同様に,「退職金は老後の生活保障だから大きく差
をつけるのはおかしい」という考えの企業もあります。
このように,会社貢献的要素を退職金制度に持ち込む
か否かは,退職金は何かという本質に関わるテーマ
でもあります。
退職金は後払いの賃金だと考える企業では人事制度
との整合性が求められるでしょうし,老後の生活保障
だと考える企業は,あまり差をつけることは
しないでしょう。よって,まずは退職金の位置付け
から社内で議論してみることをお勧めします(2015年1月26日)