嘱託社員にも退職金を払うの?

当社では60歳以上の社員を嘱託として雇用していましたが、先日その社員を雇止めをしたとき、退職金を支給してほしいと申出てきました。当社は、嘱託社員規程は特に定めていませんが、嘱託には退職金はないもとのと考えています。 何か問題があるのでしょうか?
常時10人以上の労働者を使用する使用者は,就業規則を作成し, 労働基準監督署に届け出なければなりません。 そして,届け出た就業規則は,原則として事業場で働くすべての 従業員に対して適用されます。そのため,嘱託社員に対しては, 正社員との労働条件の差を考慮して就業規則に除外規定を置いて 別に嘱託規程を設けることが有用ですが,正社員と共通する事項 も多いので,就業規則で「準用」するという規定を置いて別規程を 定めていないケースも少なくありません。 後者のような規定の仕方をした場合には,就業規則のどの規定が 準用されるかを就業規則や嘱託規程等で明確に規定しておく必要 があります。 この点を明確にしない場合には,争いとなって裁判に持ち込まれた ときに,嘱託社員に対して思いがけず正社員の規定が準用されること があり得ます。 また,嘱託社員について就業規則の適用を除外しても,嘱託社員に 対する別規則を設けていないと就業規則作成義務違反となるので 注意が必要です。 就業規則上,退職金支給規定がある場合に,嘱託社員に対して 退職金を不支給とする場合には, ①就業規則(退職金規程)において、適用する社員の範囲を明確に 規定し、別に嘱託規程を設けて退職金を不支給とするか, ②別途嘱託社員との労働契約において退職金不支給を規定すること が必要です。 ②の方法による場合には,個別労働契約より就業規則の効力が 優先することを考慮すると(労基法93条,労契法12条), 就業規則で嘱託社員については適用除外としておく必要があります。
仮に①や②の方策をとっていない場合には,正社員の就業規則が
準用される可能性があるとともに,募集条件等で退職金の不支給が
明示されていれば,これが参考とされることもあり得ます。
しかし,それもない場合には各社の採用時の説明内容,取扱いの
実態や慣行の有無・内容によって処理されることもあります。
これらの場合には,退職金の支給をしなければならないのかに
ついて微妙な問題を残しますので,やはり①または②の対応が
是非とも必要となります。
この点,判例においては,就業規則では正社員用のものしか
作成していなかった事案において,地裁では退職金請求を認め
ませんでしたが,高裁においてはこれを減額したうえで認めた
ものがあります(大興設備開発事件,京都地判平成8.11.14・
大阪高判平9.10.30)。
また,就業規則が嘱託社員にも別に定めるものを除き準用される
との前提の会社において,
①嘱託契約を締結する前の当初の労働契約において退職金を支給
しないことを合意していたこと,
②嘱託契約においても内容的には基本的に従前の契約と同様で
あったこと,
③嘱託契約締結に際して退職金の話が出なかったこと等を理由
として,退職金を支給しない旨の黙示の合意が成立しているもの
として,退職金請求を認めなかった判例があります
(小型自動車開発センター事件,東京地判平成16.1.26)。
但し、これらの紛争を回避するためにも、就業規則で明確に
規定しておくべきでしょう。

お問合せの事案については詳細を検討する必要がありますので、
当事務所にご照会下さい。

(2012年8月28日)