雇用環境が変化する中で、賃金の決定に際し、労働時間をベースとする従来の制度ではなく、年俸制を導入する企業が増えてきています。年俸制は賃金を年単位で決定するというだけでなく、前年度の業績の評価などに基づいて労働者と雇用者の間で交渉によって決定されるという特徴があり、管理職や専門職、営業職などで採用されることが多いようです。
年俸制は事前に年間の賃金額が決定されることから、時間外労働に対して割増賃金を支払う必要がないと誤解している企業も少なくないようです。しかし、たとえ年俸制の労働者であっても、時間外労働や休日労働をさせれば、原則として割増賃金を支払わなければいけません。
①割増賃金を支払わなくてよい場合
時間外労働や休日労働に対して、割増賃金を支払わなくてもよい場合として、
労働基準法 第41条に規定されている管理監督者、裁量労働や事業場外労働に
ついて「みなし労働時間制」が適用されていて、みなしによって処理される労働時間が1日に8時間を超えない場合などが考えられます。ただ、管理職すべてが労働時間などの適用が除外される管理監督者となるわけではないこと、管理監督者であっても労働契約外の労働に対しては別途賃金の支払いが必要なこと、管理監督者であっても深夜労働については割増賃金の支払いが必要なことなどについては注意が必要です。
②割増賃金を支払わなければいけない場合 一般の従業員に年俸制を導入し、時間外労働などをさせた場合、基本的に割増賃金を支払わなければなりません。それは、年俸額は所定労働時間の労働に対する賃金として定められているのが一般的であるため、時間外労働などに対する割増賃金が当然に含まれているわけではないからです。年俸額のうちいくらかが割増賃金相当額なのか明確に定められている場合には、実際の割増賃金額がその割増賃金相当額に達するまでの時間外労働に対して、別途割増賃金を支払う必要はありません。
③割増賃金の定額払い 割増賃金の支払いが必要な従業員に年俸制を導入する場合、割増賃金をとりあえず定額で支払うという方法があります。定額払いされた割増賃金の総額が、法所定の計算方法によって算定された割増賃金の総額を下回らない限り違法とはなりません。法所定の割増賃金を下回る 場合には、定額払い額と法所定の割増賃金額との差額を支払わなければなりません。このような扱いをする場合、通常の労働時間に対する賃金と割増賃金に相当する賃金が区別できるようになっている必要があります。
(05/08)