中退共のメリット・デメリット

 安全且つ簡便な中小企業向け退職金支払準備制度として中退共制度(中小企業退職金共済)が注目されています。この制度には、
利回りが確定している(但し、改訂されることはあります)
積立不足問題が発生しない(確定拠出です)
他の企業年金と同様の税制優遇がある
手数料が殆どかからない
国の助成がある等々のメリットがあります。
 然し、何事もそうですが、メリットの裏にはデメリットもあります。又、メリットを有効に活用するために心得ていなければならないこともあります。今回は、そういう観点から、中退共制度を利用する場合の留意点、注意点を次の通り纏めてみました。

先ず第一番目は、”短期間で退職する社員がいるときには、その分の掛金は掛捨てになってしまう”ことに注意が必要です。つまり、掛金の納付期間が1年未満のときは中退共からの給付はゼロ、1年以上2年未満のときは掛金の総額を下回る給付、2年以上3年6カ月までは掛金総額と同額の給付となり、運用利息が加算されるのは、3年7カ月以上の掛金月数があるときに限られるのです。例えば月額掛金1万円で加入した社員が 11ヶ月後に退職したときは、中退共からの支払いはゼロとなり、その上それまでの掛金分(総額11万円)は企業の積立資産相当分に加算(または企業へ返還)されるわけでもないので、事実上の掛捨てになってしまうのです。
次の注意点は、”掛金が月額5千円(パートタイマーは2千円)から3万円までの定額”で定められていることです。利回り年1%を前提とする現行の基本退職金表によれば、勤続35年のモデルを想定した場合、掛金月額5千円なら35年で250万円、掛金1万円で500万円、3万円で約1500万円です。然し、新入社員のときから月3万円ずつ掛けるのは現実的ではないし、35年に渡って5千円というのでは250万円の退職金にしかなりません。つまり、この制度は、入社後の給与や役職の変動等に合わせて掛金の定期的な見直しが必要なのです。従って、予め役職、資格等により掛金の付与額を変動させるなど一定の社内規程を作っておかないと、この制度のメンテナンスが煩雑なものになってしまい、効率的な運用を妨げることになるのです。
三つ目は、新たに中退共制度を導入する場合、過去勤続分の内最長で10年分しか制度に持ち込めないという点です。例えば、中退共制度を新規に導入するにあたり、勤続30年の人の分として、過去の30年に相当する資産を中退共に持ち込み、仮に勤続35年で退職したときは35年分を中退共から支払ってもらえるなら便利ですが、それは認められません。これは、適格年金を廃止して中退共に移換する場合にもネックになることで、適格年金に長期加入して積立資産が大きくなっている人の分についても、直近の10年分しか資産移換できないのです。これを金額で示すと、掛金上限の3万円を10年間にわたって積立てたと仮定して計算した基本退職金相当の約380万円が限度となります。適格年金の積立資産の内、これを超える期間の分または超える金額は、中退共に移換できないので、本人に払い戻すこととなり、課税問題が発生してしまいます。つまり、この払戻金は、本人が未だ退職していないので、税法上の退職金控除の恩典を受けることができないのです。
最後の留意点は、自己都合と会社都合の退職金支給率の差を反映させる問題です。現状、殆どの企業の退職金制度は、退職金の支払い額を、会社都合退職よりも自己都合退職のときの方が少額になるように制度設計をしています。このような退職金制度を持つ企業が、中退共制度を利用するときには、支払い額が自己都合退職の枠内に収まるように掛金額を設定するのが通例です(適格年金から中退共に移換する場合も同様)。つまり、適格年金の場合は、企業が受託機関(生保・信託等)に従業員分の掛金を合計し、一括して納付します。特定の従業員分の金額は表面的には不透明となっています。そして、ある従業員が退職するときに、会社が退職金規程に従って、自己都合退職、会社都合退職に応じて受託機関に指示をし、それに基づき受託機関が退職者の口座に退職金を振込む仕組みとなっているのです。これに対し中退共制度では、確定拠出年金と同様に毎月の掛金が個人毎に分別され、明白になっています。そして実際に退職するときには、原則として退職事由に関係なく、そのときの掛金月数に応じた給付額が中退共から退職者の口座に振り込まれます。つまり、中退共では自己都合と会社都合の支給率の差を反映した掛金設定はできないのです。 そこで、中退共に加入している企業が従業員の自己都合退職のときの払い過ぎを防ぐには、各時点での各人への支払い額が自己都合退職金の枠内に収まるように、掛金設定をする必要があるということになるのですね。  そして実務上は、掛金の減額には大きな制約がある(本人の同意が必要等)ので、最初は低額の掛金から始め、段階的に増額するという方向での掛金設計をするのが一般的なのです。 “中退共制度は簡便だから問題ない”と安易な導入を計ると以上のように、その後の制度維持に大きな問題を抱えることになります。やはり新しい制度の導入時には当事務所のような専門家のアドバイスを得て慎重な対応が必要だということですね。 (2004年1月)