AIG損害保険が、転勤の多い金融業界では珍しく、
転勤を原則廃止したと報じられました。
一般に「転勤のある社員」と「地域限定社員」に分け、
給与に1~2割の差をつける企業が多いところ、同社は
「限定社員が格下の印象となり、優秀な人の出世の障壁
になる」として、廃止に踏み切ったとのことです
(日本経済新聞2019年7月17日付)。
一方、今年6月にはカネカが育休対応問題で炎上
しましたが、そのきっかけは、男性社員が育休復帰後
2日で転勤の辞令が下され、これを拒否したことでした。
同社は「当社対応は適切であった」というコメントを
公表していますが、世間からは適法性如何ではなく、
一連の企業姿勢が疑問視されることとなりました。
転勤拒否の法律問題を考える上で非常によく言及される
のが、東亜ペイント事件(最高裁昭和61年7月判決)という
有名な裁判例です。
企業の転勤命令権を広く認めた判例として、以後の多くの
人事・労務実務や、労働紛争に影響を与えています。
然し、その事案発生は1973年、判決が1986年の事なので、
最近では、ワークライフバランス等の観点から、転勤の
必要性は厳しく吟味されるべきという声も高まってきています。
自社の転勤のあり方を吟味する際の手引きとして、
厚生労働省が下記資料を公表しています。
AIG社のように全面廃止するだけでなく、雇用管理の類型ごと
の運用メニューとするなど、いくつかの例が示されています。
転勤問題についての社会の動きも変化しています。
転居を伴う転勤を命じる際は、従来以上にその必要性や
代替可能性等を慎重に検討する必要が出て来ているようです。
【厚生労働省雇用均等・児童家庭局「転勤に関する雇用管理
のヒントと手法」(平成29年3月30日)】
(2019年8月24日)