「給与比例方式」と「ポイント制」

 最近、退職金・企業年金の平均支給額が低下する傾向にあります。その原因としては、制度改訂を機に退職金支給係数等の数値の引き下げを図る企業があることと、算定方法を改訂する企業が急速に増えていることが挙げられます。短期的には支給係数等の数値の変更による直接的な引き下げの効果が大ですが、中長期的には算定方法の改訂を通した間接的な引き下げの効果の方が大きくなります。少し前までは、退職金の算定方法といえば、殆どが基本給等を算定基礎給とし、勤続年数別の支給係数を掛けて算出する「給与比例方式」でした。この方法には、次のような特徴と問題点があります。
算定基礎給となる基本給等は元々年功カーブを描いており、これに勤続が長いほど高率になる支給係数を掛けて算出するため、退職金は、基本給以上に年功色の強いものになること。
中途入社社員が能力をフルに発揮して高い業績をあげても、退職金において長期勤続者を上回ることが難しいこと。
長期勤続者の間では、”会社業績に対する高実績者であるか、低実績者であるか”等によって退職金に大きな差がつくことがなく、退職金のモチベーション(動機づけ)機能が弱いこと。
長期勤続者が多い企業では、企業業績に関わりなく退職金支払総額が増加していくこと。 
こうした点を改善するための新たな算定方法として、大企業を中心にして採用率が高まっているのが、ポイント制です。なお「給与比例」方式は、減っているとはいえ今も6割前後の企業が採用しており、代表的な算定方法である点には変わりがありません。典型的なポイント制は、次のようなものです。
 まず、勤続1年当たりのポイント(勤続ポイント)を決めます。例えば、勤続1〜3年は1年につき2ポイント、4〜5年は3ポイント、6〜10年は4ポイント……です。この各年のポイントを累計して行くと、例えば勤続30年で227ポイントになります。ポイント単価が1万円のときはこの勤続分の退職金が 227万円です。これに、資格等級などに配分される等級ポイントを加算します。例えば極端な例として、30年勤続のAさんが1等級に10年(30ポイント)、2等級に10年(50ポイント)、3等級に10年(80ポイント)在級して退職したとすれば、等級ポイントの累計160、これに30年の勤続ポイント227を加えると合計387ポイントで退職金は387万円にとどまります。
 同じ30年勤続のBさんが1等級、2等級、3等級、4等級、5等級、6等級にそれぞれ3年ずつ在級(等級ポイント累計183)した後に7等級に4年(100ポイント)、8等級に4年(120ポイント)、9等級に4年(140ポイント)在級し退職したとすると、等級ポイントの累計は543、勤続ポイント227を加えた合計は770で、退職金は770万円となります。Aさんの退職金の約2倍に当たりますから、この差は大です。このように、「ポイント制退職金制度」は、「給与比例方式」の問題点をほぼ解決することになります。但し、昇格(1等級→2等級→3等級……と上位の等級に上がること)が年功基準で運用されるときは、結果として「給与比例方式」と同じ年功色の強い制度になってしまいます。ポイント制退職金制度の成否は、能力や実績を基準にした納得性の高い昇格運用が行われるかどうかにかかっているのです。