適格年金の移行期限まで残り僅かとなりました。
中には、幹事金融機関から執拗に意思表示を迫られ,
切羽詰って適格年金を解約する企業もあるようですが、
適格年金を解約する場合には多くのデメリットがある
ので注意が必要です。
従って、もし解約する場合には,以下のデメリットを
十分認識したうえで実施することが肝要です。
①解約分配金が一時所得となる
適格年金を解約する場合,これまで積み立ててきた適年の
資産(積立金)は従業員に分配されることになります。
そして,その分配金は一時所得となり所得税・住民税が
課税されます。
本来,それを退職時に受け取れば退職所得となり,退職所得控除
が大きいためほとんどの場合は税金がかかりません。
つまり,適年を解約した際の分配金に課税される所得税・住民税は,
本来であれば従業員が負担しなくても済むものです。
よって,従業員が支払う所得税・住民税は企業が負担すべきだという
意見も強いようです。勿論,絶対に負担しなければならないという
決まりはありません。然し、元々従業員が払わなくてもよいものを
負担させるという認識はしておく必要はあるでしょう。
すでに適年を解約した企業の中には,これらの税金を負担していない
企業も一部あるようですが,ほとんどの企業は税金を負担しています。
適年の積立金が多い企業は,本来であれば払わなくてもよい税金の
負担は莫大な額となるので,解約分配する前にその税負担額を
シミュレーションして,今一度,解約すべきかどうかを検討して
ください。
②「適年の廃止と退職金制度の廃止」
適年を解約して従業員に分配したからといって退職金制度が
自動的になくなるわけではありません。
稀に,「適年の廃止=退職金制度の廃止」と勘違いしている
企業があるようですが、適年を始める際に労働基準監督署へ
提出した「退職金規程」がそのまま残っている場合は、適年
という積立手段がなくなった後も,従来の退職金制度自体は
残っていることに注意が必要です。また,その場合、新たな
積立手段を設けない限り,今後は従業員が退職する都度,
一時金を拠出することになり費用の平準化が難しくなること
にも留意する必要があります。
解約した場合の退職金拠出額の将来予測は必須です。
③退職金制度の見直し
適年を解約したにもかかわらず,上記の通り、旧退職金(退職年金)
規程の見直しをしていない企業があります。しかし,これは将来的に
トラブルになる可能性があります。
トラブルになるリスクを回避するためには,適年の解約分配金は
従業員が将来退職する際の退職金の前払いの一部だということを
規程に盛り込むことが必要ですし,従業員にも認識させる必要が
あります。小規模企業を中心に,この作業を疎かにしている企業が
目立つのですが,後でトラブルにならないように適切に対応する事
が肝要です。
④最適な選択肢を探ることが必要
上記のように,適年解約には多くのデメリットや注意しなければ
ならない点が多数あります。解約をする前に,限られた時間しか
ありませんが,会社にとって最適な選択肢を十分に検討することを
お勧めします。
(2010年12月)