業務で地方に社員を出張させ、事故にあった際の労災適用については、
注意が必要です。
出張にあっては、出張先への往復過程(慣行的に認められている
場合は、自宅を出てから自宅に戻るまで)も、原則として事業主の
支配下にあるものとみなされます。
また、出張中は、様々な私的行為を含みつつ、業務遂行責任が本人に
包括的に委ねられているのが普通です。
出張に通常伴う行為であれば、食堂で昼食をとる、喫茶店でコーヒー
を飲む、宿泊先における食事の際に晩酌程度のお酒を飲む、テレビを
見る、メールや電話をする、風呂に入る、就寝するといった一連の
行為も、私的行為を含むからといって、問題視されることは
ありません。
このように、業務遂行性が広い範囲で認められている出張ですが、
それでも、私用や積極的な私的行為、恣意行為によって招いた出張中
の事故である場合については、この限りでありません。
例えば、泥酔し、それが原因となって発生した事故、映画を見に行って
映画館で負傷した場合、街で飲み歩いて交通事故に遭ったというような
場合は、業務遂行性が失われていると判断されます。
これまで、業務遂行性が否定されたケースとしては、次のような場合
(通達・裁判例によるもの)がありますので、参考にしてください。
①手待ち時間があるため近くの海水浴場で海水浴をしたところ溺死
(業務遂行性なし)
②街に繰り出しクラブで長時間飲酒して、泥酔の結果、宿の2階窓から
転落した(積極的私的行為)
③会社の指定する宿に宿泊せず同伴ホテルに宿泊し、ホテル火災により
死亡(出張過程から逸脱した恣意行為)
また、出張の範囲についても注意が必要です。
例えば、公用外出、外勤などは出張に含まれません。厚生労働省の
解釈も、「いわゆる公用外出などは、必ずしも出張に含まれない場合が
あるし、また、外勤業務とか出勤前の公用、退勤途上の簡単な用務
なども、一般に出張とはいえない」されています。
公用外出や外勤が、会社を起点・終点にされる場合は、問題は
生じませんが、これに、直行・直帰が組み込まれるような場合は、
最終(最初)の営業先と自宅の間は、通勤災害として、業務災害とは
分けて処理されることになります。
(2010年11月)