「企業年金の受託概況」(生命保険協会,信託協会が毎年公表)の速報値
(22年3月末現在)によると,適格退職年金は、平成21年度末の2万5,441件から
1万7,184件となったとのことです。
平成22年度は8,257件の減少とかなり大幅に減少しましたが、制度廃止まであと
2年を切った時点でも未だ1万7,184件もの適格退職年金が残っており,新制度
への移行もしくは解約を完了できるかは予断を許しません。
加入者数で適格退職年金を見ると,平成22年3月末で249万人であり,
これだけの加入者数をかかえている適格退職年金がうまく新制度等に収束
できないと,企業の従業員が不利益を被る可能性も懸念されています。
厚生労働省等による平成21年12月から平成22年1月にかけての,適格年金
を持つ企業約2万社を対象にした調査によると,「まだ検討していない」企業が
9%もあることが判明しています。回答のあった約1万社のうち,移行先を決めた
企業は26%に過ぎず,「検討中」が58%,「解約決定」が6%となっており,
適格退職年金廃止が平成24年3月末に迫る中,依然として準備不足の企業が
多いということがわかります。事業主が検討に着手していない理由として,
「まだ時間がある」が41%,「社内の検討体制が整っていない」が29%,
「他の業務が忙しい」が22%であり,適格退職年金移行に対する意識の低さ
からの回答が多くあります。
この実態調査結果では,適年移行が検討されない理由として企業の意識の
低さを指摘していますが,企業にしてみれば,そのままでも特に不利益とは
ならないから移行に結び付かない面も考えられます。しかし,従業員・受給者に
とってはそうではありません。
廃止期限以降,仮に企業年金契約が継続できたとしても,企業年金の掛金が
従業員に所得課税され,退職一時金が退職所得の扱いとならず,年金も
公的年金等控除の適用がなくなり,実質の給付に影響する恐れもあるからです。
特に,既受給者に閉鎖型の適格退職年金を存続させている場合,税制優遇が
なくなると実質減額となってしまい,同様に不利益を被る可能性があることに
留意する必要があります。
生命保険業界も、適年の受託機関として、企業への適年問題の早期処理を
働きかけています。
平成22年度に入って,生命保険協会はそのホームページでも,適格退職
年金の移行を促しています。
その内容をいくつかご紹介しますと、
「適格退職年金移行の必要性」として「適格退職年金について他の企業年金
制度等への移行などの対応を行わない場合,平成24年4月以降は掛金について
従業員の所得税課税(みなし給与課税)となるなど,大きな影響が出ることが
見込まれます。」とあります。
つまり,先にも述べましたが,企業が拠出する掛金は損金(給与)算入を継続
できる一方で、従業員には給与所得として課税されることになります。
他方で、適年からの給付を一時金で貰うと退職所得ではなく、一時金給付の
一時所得扱いになることが指摘されています。年金給付で受けると公的年金等
控除が適用されないことは記載されていませんが,同様に従業員や受給者の
不利益となるため注意が必要です。また,「適格退職年金から他の企業年金
制度等への移行には,移行先の決定から移行手続きの完了まで約10カ月の
期間を要しますので,早急に移行先をご決断の上,お手続きを開始ください。」、
「適格退職年金から他の企業年金制度等への移行には,検討着手から
手続完了まで約2年,場合によってはそれ以上の期間を必要とすることもあります。」
ともホームページに記載し,生保協会として、企業への早急な対応を求めています。
(2010年10月)