社員の転勤拒否は有効?

社員に転勤の辞令を出したら家族のことなどを理由に断られてしまいました。然し、この業務は他の社員で代替することはできないし、また、この拒否を会社が受け入れたら「転勤は拒否できる」という先例にもなりかねません。従って、会社としては、この社員には、是非ともこの転勤辞令に従ってもらいたいと思っているのですが、問題があるのでしょうか? 
多くの会社で、少なからず、ご質問のような問題を抱えています。 「転勤命令」については、 “会社側としての業務上の必要性が強いなどの条件が あれば、社員は従わざるを得ない”との考え方が主流です。 然し、その為には次の四つの条件を備えておく必要があります。
①雇用契約や就業規則の中にキチンと「転勤を命ずることがある」との
記載があること。
②業務上の必要性の程度が強いこと。つまり、“この社員でないと、
転勤先の事業は旨く行かない”などといった理由が明確にあるかどうかと
いうこと。
③不当な動機目的を持った配置転換などの措置ではないこと。 
④転勤による配置転換によって不利益を被った場合に、“それを
甘んじて受け入れるべき程度”を著しく超えていないこと  
   
の四つの条件ですが、要は、「その転勤命令が、極端すぎないか
どうか」ということです。 
例えば、“今まで東京にいたところを、大阪に転勤したことで家族の面倒が
見られなくなったとか。現在、家族の誰かが要介護状態だとか、
子供が病弱で移動は無理だ”などの家庭生活を維持して行く上での深刻な
事由が社員側にあると、社命の強制力は低減されます。
また、勤務地が非常に遠いにもかかわらず、通勤手当が今までのままと
いった場合も、転勤拒否が正当化される可能性が出てくるでしょう。
尚、「家族との生活」を理由にした転勤拒否については、“よほどの事由”が
無い限り、「他の社員では絶対に代替できない」という会社側の業務上の
理由の方が優先されますので、社員も転勤命令に従わざるを得ないでしょう。
家族を理由に「転勤拒否」出来る場合とは、実際の裁判例でみると、
“原告(社員)の奥さんが精神病を患っていて、母親がパーキンソン病のために
要介護の認定を受けている。そこに転勤の辞令が下った”という例があります。
この事案での判決では、「家族の病状を理由」に、社員に著しく不利益を与える
として、会社側の配転命令を拒否した原告(社員)が勝訴しました。 
家族を理由の転勤拒否は、この裁判例の程度にまでいかないと
“よほどの事由”として是認されないようです。
通常程度の「家庭の理由」では転勤拒否は難しいのが現実かもしれません.
但し、そのためにも、会社の就業規則、転勤規程(その中に、赴任手当や
社宅はどうなっているか、借上げもOKかといった点も明確にしておく)等の
諸規則、規程は整備しておく必要があるのは、云うまでもありません。
(2010年10月)