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- 個人的に消費者金融から借金をしていた当社の社員が、返済が滞ったことから3カ月程度の自己の賃金債権を譲渡したらしく、消費者金融から会社に債権(賃金)の支払いを求める電話がかかってくるようになりました。社員が消費者金融に賃金債権を譲渡したとはいえ、労働基準法には「賃金は、直接労働者に支払わなければならない」という直接払いの原則があります。このようなケースでは、どのように対応したらよいのでしょうか?
- 社会保険関係の法律では、一般に保険給付の受給権の譲渡を禁止しており、 また、労働基準法では、労働者が使用者に対して有する災害補償を受ける 権利については譲渡を禁止しています。 しかし、賃金については特に規定はありません。したがって、賃金に 関しては、譲渡は可能とも考えられます。 しかし、使用者に対し立場の弱い労働者を保護するため、労働基準法では 賃金の支払いに関する「直接払いの原則」が定められています。 過去の裁判等では、たとえ債権譲渡をしたとしても労働基準法の直接払い の原則を優先するとする裁判例が多く、賃金を金融業者に支払うことは できないと考えるのが一般的です。 ただし、民事執行手続により裁判所が差押えを命じた場合は、雇用主は 差押命令に応じなければなりません。これは一見、直接払いの原則に 反するようにも見えますが法的には問題ありません。 借金返済が滞った場合だけでなく、国や地方への税金の滞納の場合も 同様です。 しかし、給与全額を差し押さえられてしまうと、その社員は生活できません。 このため、債務者保護の観点から、差押金額は原則、賃金から所得税・ 地方税・社会保険料等を控除した手取り賃金額をベースに、賃金の 4分の1までとされています。 然し、政令では、標準的な家庭に必要な生活費として33万円を想定し、 33万円が4分の3に相当する44万円で線引きをし、手取り額が44万円を 超えていれば、33万円を残してそれ以上の部分はすべて差し押さえられる としています。 従って、標準的な世帯所得を超える高給をもらう人については、政令で 定める額を超える部分の全額を差し押さえることも可能なようです。 企業としては、このような賃金債権譲渡問題については、法律に基づく 強制執行手続の場合を除き、やはり生活者(労働者)保護の精神を 念頭に置いて、労働法規に則り慎重に対応することが肝要でしょう。
(11年12月27日)