更新のときパートの時給引下げはOK?

当社パート従業員某さんの契約期日が到来しますが、その際、時給引下げを契約更新時にすることは可能ですか?また、変更合意を得られない場合は,雇止めすることは可能ですか?
(1)契約条件の変更について
河合塾事件(最三小判平22.4.27)は,更新後の契約条件について、
労使双方の合意が成立せずに労働契約が終了に至った事案で,
労働者の求めた地位確認等が認められませんでした。
最高裁判決では、会社が受講生からの評価が低いことを理由に
労働契約の条件を変更したことは経営上の必要性からやむを
得ないと判断されました。
なお,高裁判決では,新たな労働契約の締結に当って,何ら
合理的な理由も必要もないのに前年度よりも不利益な内容の
契約に変更することは許されず,また、契約変更の目的自体
には合理性が肯定されたとしても,労働者の生活を脅かすほど
の減収を来たすような不利益変更は相当であると言えず,その
程度も自ずと合理的な範囲に限られるとの判断が示されて
います(福岡高判平21.5.19)。
労働条件を不利益に変更して,契約を更新する場合は,その
必要性や理由,目的,不利益の内容や程度を十分に検討する
必要があると言えます。
例えば,契約更新をしないことを念頭に,労働者が大幅に
不利益となる労働条件の変更を提案すると,提案自体に合理的
理由がないとされる可能性があります。
(2)雇止めについて

期間の定めがある労働契約は,期間満了とともに契約が終了
するのが原則です。然し,契約当初から雇用継続の期待を
抱かせる様な言動がなされたり,現実に契約が何度も更新
されて長期雇用化した場合は,有期労働契約であっても,
解雇権濫用法理が類推適用され,解雇手続と解雇理由が要求
されるという条文が改正労働契約法に入れられました。
 解雇権濫用法理が類推適用される否かについては,以下の
①~⑤の事情を,総合的に勘案し,有期契約労働者の雇用継続の
期待の強度,その期待が社会的に合理的なもので,法的に保護する
価値があるか,その保護の程度等から判断されています。
①契約更新回数,②通算の勤務期間,③更新手続等の管理状況,
④雇用の臨時性・常用性,⑤雇用継続の期待を持たせる言動・制度
(3)労働条件変更して雇止めのケース

日本ヒルトンホテル事件(最一小決平17.5.16)は,会社が労働
契約を不利益に変更した更新提案を労働者が拒否したので、
その労働者を雇止めにしたことについて、その有効性が争われた
事案です。
裁判所は,会社が配膳人(労働者)に対する労働条件を変更する
ことには①経営上の必要性が認められ,②その不利益変更の程度や
③組合との間で必要な交渉を行っていること,④配膳人のうち95%に
相当する者の同意が得られていること等の事情を総合すれば,
労働条件の変更には合理性が認められるとしました。
また、会社が日々雇用する配膳人に対し,将来的に変更後の
労働条件を適用して就労させることは許されるというべきとし,
変更後の条件による雇用契約更新の申込みを拒絶した配膳人の
雇止めは社会通念上相当と認められる合理的な理由が認められる
としています。
本件は、日々雇用者の事案ですが,契約条件を不利益に変更する
際の,慎重な対応として参考になるでしょう。

(2012年10月24日)