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- 最近、当社社員が昨年2月に社内規定に反する 不祥事を起こしたので、減給の懲戒処分を科しました。 その後,昨年7月に賞与を支給しましたが,賞与の算定期間が昨年 1月から6月まででしたので,2月に不祥事を起こしたことを 考慮して低位査定を行い,他の社員よりも少ない賞与を 社員Aに支給しました。 然し先般、社員Aから「2月に減給処分を受けたのに更に賞与が 減額されることは二重処分であり,無効である。本来支給される 賞与と支給された賞与との差額を支払え」との苦情がありました。 このような場合,差額の賞与を支払わなければならない のでしょうか?
- ① 減給の制裁 減給とは,「労務遂行上の懈怠や職場規律違反に 対する制裁として,本来ならばその労働者が 現実になした労務提供に対応して受けるべき 賃金額から一定額を差し引くこと」を言います。 従って,減給の制裁の前提として,労働者が 使用者に対して賃金請求権を有していることが 前提となります。この減給の制裁については 労基法91条で「就業規則で,労働者に対して 減給の制裁を定める場合においては,その減給は, 1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え, 総額が一賃金支払期における賃金の総額の 10分の1を超えてはならない」と定められています。 ② 二重処分(一事不再理)となるのか 同一事由について2回の懲戒処分を行うことは 禁止され,このことを「一事不再理」ないし 「二重処分の禁止」と言います。 このことは裁判例でも,例えば「懲戒処分は,使用者が 労働者のした企業秩序違反行為に対してする一種の 制裁罰であるから,一事不再理の法理は就業規則の 懲戒条項にも該当し,過去にある懲戒処分の対象と なった行為について重ねて懲戒することはできないし, 過去に懲戒処分の対象となった行為について反省の 態度が見受けられないことだけを理由として懲戒する こともできない」(平和自動車交通事件・東京地決 平成10年2月6日)と判示されているところです。 それでは,過去に懲戒処分を受けた者について賞与 を低位査定することは二重処分として禁止されることに なるのでしょうか。 これについては、社内規程の定めにより結論が異なります。 (イ)社内規程の根拠条項で「賞与を支給することがある」、 「賞与は会社の経営状況,本人の勤務状況等を勘案し, 支給することがある」といった定めの場合には,使用者 により過去の勤務状況を踏まえて決定された支給額, その限度においてのみ賞与支払請求権が発生すると 考えられますので,そもそも減給の制裁に該当するもの ではないと考えられます。 従って,差額を支払う必要はありません。 (ロ)他方,「賞与は2カ月分の基本給を支払う」と 定められていた場合には,労働者に基本給の2カ月分の 賞与支払請求権が発生しているのであり,減給処分を 受けていたことを理由として減額をすることは二重処分に 該当しうるものと考えられ,申し出通り差額の支払いが 必要となるものと考えられます。
(2018年9月27日)