適格年金から退職金前払いへの移行時のポイント

 適格年金は2012年3月をもって実質的に廃止されることが決まっています。あと8年強です。あと8年あるといっても、この制度を続けていればいるほど、積立不足拡大の恐れが大(生保に「一般勘定」で年金資産の運用を預託している場合、”生保の保証(実質運用)利率は0.75%”であるのに対し、”適年の予定運用利率は4%〜5.5%程度”となっている場合が多いので、時間が経てば経つほど積立不足は拡大します)なので、企業としては早期の対応が求められるところです。
 適格年金解約後の退職金・企業年金制度の選択肢には、確定給付企業年金(規約型、基金型)、厚生年金基金、確定拠出年金(企業型)、中小企業退職金共済、退職一時金、退職金前払い、退職金廃止など幾つもの種類があります。その中で、最も手続き面でシンプルな退職金前払い制への移行についての注意点を下記の通り纏めてみました。

適格年金から退職金前払い制に移行するには、まず適格年金の解約手続きが必要です。適格年金の解約は、法的には事業主の意思だけで決定できます(但し、他の代替措置を採らなければ当然不利益変更の問題が発生します)。解約が決まると、生命保険会社等の受託金融機関に、それまでの積立資産をもとに従業員各人別の分配金を計算して貰います。そして、この分配金は、各従業員に直接支払われますが、税法上は、一時所得として取り扱われます。退職金として扱われれば、勤続年数に応じた大幅な退職金控除が認められますが、一時所得の場合は50万円の特別控除があるだけです。
 例えば勤続20年で退職して 500万円の退職金を受け取った場合を考えると、(退職所得であれば)退職所得控除額が退職金額を上回っているので、全額非課税をなります。然し、一時所得の場合は225万円(500万円から50万円を控除した額の半額)が課税対象となります。これに対する税率は他の所得の多寡によって異なりますが、仮に20%の税率が適用されるとすれば45万円です。翌年は住民税も課されます。更に移行後も、前払い分を支払う都度、新たに税金、社会保険料の負担が増加(従業員、会社共)してしまいます。 だから、この公的負担の増加問題が前払い制へ移行する場合の先ず最初の注意点です。
そして、更に重要なことは”退職金・企業年金は重要な労働条件の一つであり、従業員のモラールに大きな影響を与える”ということへの配慮です。従業員にとって、社外積立で退職時に纏まった金額(または年金)を受け取れる制度からその都度払いに切り替わるということは、自分の将来への不安感を醸成するかも知れません。然し他方では、”制度の存続が不安定で、将来貰えるかどうか不透明な適年”より”毎月確実に退職金分が貰える前払い制の方が良い”と考える人もいるかも知れません。このように退職金に対する考え方は人夫々です。要は、経営者が、”従業員夫々にも自分のライフプランがあって夫々が会社と共にこの厳しい時代を乗り越えて行かざるを得ない”ということへの理解とそれに基づく従業員との共感が最も大切なことだと思います。制度変更に際してはこの視点から、従業員に対する説明を重視して、その納得性を高めることが最も大切なポイントではないでしょうか。尚、当事務所は退職金・企業年金制度の見直し、設計には力を入れており、多数のコンサル実績もあります。
是非一度お声を掛けて下さい。
(2004年2月)