中堅生命保険会社のM生命は、2004年4月に相互会社から株式会社に組織変更しました。その同じ日に、従来生保会社の聖域とされた保険事務部門を合弁会社にアウトソーシングしました。即ち、M生命と世界的なコンピュータ会社の日本法人I社が、折半出資で設立するN社にM生命の保険事務の運営を全面的に委託したのです。
これは生命保険業界初のことでした。M生命は、従業員約4,700名のうち、保険事務に携わっていた正社員、パートタイマーの約1,000名を新会社に出向させることとしました。一方、I社は約10名を出向させました。両者の契約期間は10年間です。
N社は固定費削減と業務改革により、M社が自前で事務処理をした場合の経費400億円をはるかに下回る340億円で、保険事務を請け負います。人件費・システム投資を含めて、I社が効率化作業の責任を負い、340億円の契約金額を超過した場合には、I社が負担する契約内容になっています。このアウトソーシングで、M生命は10年間で人件費などを約60億円圧縮することができます。又、事務作業の見直しとして、契約書類をペーパーレスで作業が完成するシステムを導入するとのことです。
従来、縦割りだった作業の流れを改め、「入力業務」「内容確認業務」など業務内容ごとに処理チームを再編する計画です。これらが実現すれば、男性総合職の多くの仕事はなくなります。人員を最終的には6割強に減らし、他部署に回す予定もあります。
このように、聖域であると云われていた保険事務にまで踏み込んだ外部委託により、M生命は事業費の平準化と削減に成功しました。昨今の厳しい企業の生残り競争を受けて、外部委託の流れが加速していることがよく分る事例です。その一方で、雇用形態の多様化が進んでいます。労働経済白書2003年版によると、雇用者が84.4%、非雇用者が15.4%となっています。これはつまり就業者6人に1人が非雇用者ということです。又、雇用者の内訳をみると、正規雇用61.5%、非正規雇用23.0%となっており、雇用者においても4人に1人は非正規雇用者ということになります。
もはや正規雇用者は、就業者の6割強しかいないということです。この様な動きを受け、「労働基準法」では、有期労働契約の上限が見直され、解雇にかかる規定が整備され、裁量労働制にかかる要件が簡素化されました。また、「労働者派遣法」では、派遣期間の制限が延長され、製造現場への派遣が解禁されました。更に、「職業安定法」においても、職業紹介事業の許可が事業所単位から事業主単位になり、取扱い職種の範囲その他業務の範囲についても、厚生労働大臣への届出で足りることとなりました。
この様に、企業の生き残りを掛けたアウトソーシングが急速に進捗する一方で、労働側の”労働形態の多様化”も進み、それを受けた法改正が進むという流れが起きています。然し、このような大きな”うねり”の中で労働者個々人の生活が圧迫されたり、国としての生き残りを掛ける”高度技術の継承”がなおざりにされたりしないか等々が懸念されます。 このような動きが果して良いのかどうか、・・・・