厚生年金基金は、日本の代表的な企業年金で、老齢厚生年金に上乗せ給付を行うための制度です。本年4月時点で約1200基金あります。4年前の平成12 年3月末は1835基金ありましたから、4年間で635基金が解散したことになります。厚生年金基金をこの様に深刻な状況に陥らせた原因は、何といっても “デフレ経済の進展と低金利”でしょう。つまり、この制度は従業員の賃金が毎年数%ずつ上昇し、それに伴い保険料が上がることを前提とし、又、保険料に対して一定の運用益(年5・5%)がつくことも想定しています。
然し、実際には近年は、従業員の昇給は殆どなくなり、実質金利もマイナスに陥ることが多くなったのはご承知の通りであります。金利が与える影響は、大変大きいものです。例えば、年5.5%の複利計算を40年間行うと8倍になりますが、年2.0%では40年後に2倍にしかなりません。だから、昨今の長引く超低金利は、年金財政には極めて深刻な影響を与えることになるのです。
この様な情勢を受けて、”給付水準の引下げ”に踏切る基金の数も大幅に増加しています。昨年度(平成15年度)は、過去最高の219基金が実施(従来は、平成12年度:177基金、平成13年度:131基金、平成14年度:99基金)しています。この内、既に受給が始まっている人の年金をも減らした基金も、15基金と前年度の5倍に膨れ上がっています。
ところで、給付減額をしても基金の年金財政が均衡せず、結局破綻して解散に追い込まれると、恐ろしい問題が発生します。厚生年金基金の破綻第一号は、平成6年解散の日本紡績業厚生年金基金です。ここは被保険者数が激減したため、巨額の積立不足金を残したまま破綻しました。基金が解散すると、厚生年金の代行部分を政府に返上し、上乗せ給付部分を厚生年金基金連合会に事業譲渡することになります。このケースの場合、この時に積立不足金が残っていたため、それを事業主から徴収しましたが、これに対し、事業主が反発、結束して元理事長を相手に訴訟を起こす騒ぎとなったのです。
厚生年金基金は、大手企業が単独で作った「単独型」や、同業の中小企業が集まって作った「総合型」があります。この内、問題が複雑化するのがこの「総合型」です。言ってみれば、それは寄り合い所帯だから、経営責任の所在が曖昧になりがちだからです。基金の経営責任者は理事長ですが、実際には厚生年金基金の仕組みもあまり理解していない人が務めている例もあるようで、基金経営の実態は極めて問題含みです。そんな状況を受けて、事業主の中には基金の将来性を危惧して退会を申し出るところも頻発していますが、退会には巨額の脱退金を要求されるので、抜けるに抜けられない状況も他方であります。
正に残るも地獄、去るも地獄なのです。事業主にしてみれば、”従業員の複利厚生を充実させたい”と思い加入しただけですから ”こんなはずではなかった”という思いをしているでしょう。
(2004年7月)