近年、中小企業においても成果主義に基づく人事制度改革が進められていますが、その中でも退職金制度を抜本的に見直そうとする動きが加速しています。数年前までは退職金制度改革といえば、「ポイント制退職金制度」が主流でしたが、最近は「確定拠出型の退職金制度」や「前払い制度」の導入も増えています。その背景としては、企業経営者が従業員に対する債務である退職金を、”事業遂行上のリスクとして認識し始めている”という事を指摘できるでしょう。
「ポイント制や最終給与比例方式」による退職金制度は、その給付額を予め約束する「確定給付型」です。この確定給付型は資産運用リスクが企業側にあるため、近年のように運用利回りが低迷した環境では積立不足の発生が避けられず、その為の追加拠出が企業の大きな負担となっているのです。そこで、この運用リスクを回避するため、最終的な退職金支給額は約束せず、毎月の拠出額(掛金)だけを約束する「確定拠出型」の退職金制度が企業経営者の関心を呼んでいます。
中でも、中小企業経営者の注目を集めているのが「中小企業退職金共済(中退共)」を活用した確定拠出型退職金制度です。このような”確定拠出型退職金制度”や”前払い制度”は数年前までは極めて採用事例が少なかったのですから、”企業の退職金制度改革は、全く新たな段階に入ってきた”とも言えるでしょう。そして、これからの中小企業の退職金制度は、「退職金前払い制度」と「中退共利用確定拠出型退職金制度」の二つが主流になっていくと言っても過言ではないと思います。 この制度の概要は、次の通りとなるでしょう。
中退共利用確定拠出型退職金制度社内の資格別などで中退共の掛金を設定し、その運用結果が社員の退職金になるという制度です。支給額を約束する通常の退職金制度(確定給付型)とは異なり、掛金しか約束しない(確定拠出型)ため、金利の低下などにより運用が悪化したとしても、会社側に追加拠出など運用のリスクが発生しないという点が最大のメリットとされます。また、この制度には、適格退職年金からの資産の引継ぎが認められ、且つ平成17年4月以降は、(10年分に制限されていた)資産移行限度額も撤廃されます。従って、今後は益々このタイプの制度導入を考える中小企業経営者が増えていくものと思われます。
退職金前払い制度既存の退職金制度を廃止し、その相当額を給与に上乗せして支給する方法です。給与に上乗せして支給するため、社会保険料や所得税の面で不利になりますが、究極の「Pay Now型」で、社員の現在の貢献度を短期に決済してしまおうと考える経営者を中心に、今後この制度を採用する企業も徐々に増えていくことが予想されます。然し他方、この制度は”従業員が自己責任で老後資金を準備すること” が原則ですので、厳しく自己節制、将来計画を立てられる人でないと定年退職時に、” 老後資金がない”という厳しい状態に追込まれる懸念も残る制度ではあります。
これからのサラリーマン像グローバルな競争時代を向えて、企業を取巻く経営環境は、”従業員の老後まで、企業が面倒は見られない” 厳しい時代に入りつつあるように思われます。これを受けて、退職金給付を含めた人事処遇制度は、益々「成果主義」的色彩を強めていくでしょう。他方、公的年金制度も今後は、給付が減額していくのが確実です。となると、これからのサラリーマン像は、一部の”富む人” と 多数の”そうでない人”への二極分化が急速に進んでいくのではないでしょうか。 (2004年7月)